interview

各々の生き方に宿る、リクルートのDNA

リクルートだからこそ活かされる、「戦略×UXデザイン」の経験とは

坂田 一倫

株式会社リクルートテクノロジーズ

ITマネジメント統括部 サービスデザイン1部

ストラテジーグループ

Profile

坂田 一倫(さかた かずみち)
2015年中途入社。大手Webサービス会社、デザイン会社を経て、2015年より現職にて人材領域のサービスデザインに従事する。ユーザエクスペリエンス設計担当者が集まるコミュニティUX Tokyo主宰。監訳書として『Lean UX−リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン(オライリー・ジャパン)』などがある。HCD-Net 認定人間中心設計専門家。
※2016年3月時点です。

ブラジルで生まれ、高校時代までアメリカで過ごした後、日本の大学を経てUXデザインの道に進んだ坂田一倫。最も多感な時代を多種多様な人種、言語に囲まれた環境で過ごすなか、非言語コミュニケーションの大切さを肌で感じてきた彼は、大学時代にUXデザインの概念と出合って以来、「共感」を生み出すデザインを追求してきた。豊富な経験を携え、2015年にリクルートに入社した坂田は、デザイン書の監訳や講演をはじめとした活動に並行して取り組みながら、UXデザインの本質的な価値を社内外に発信していくため、精力的な活動を続けている。

ユニバーサルデザインの
「誰にとっても公平なデザイン」という概念が、
海外生活で大切にしてきた
「非言語コミュニケーション」や「共感」とシンクロしたんです。

―坂田さんはブラジル出身ということですが、いつごろまで海外で生活していたのですか?

坂田:僕は、父親の仕事の関係でブラジルに生まれ、5歳までそこで生活をしていました。そこから、また父親の仕事でアメリカのジョージア州に移り、高校時代はニューヨークで過ごし、高校卒業後に日本で暮らすようになりました。ブラジルにいたときは、自分もほかの友だちと同じようにブラジル人だと思っているのに、周りは自分よりも濃い顔の子どもたちが多かったり、アメリカでも、周りにはアジア人から黒人までさまざまな人種の人たちがいました。でも、家に帰れば家族はみんな日本人というなかで、ある種のアイデンティティクライシスのようなものが起こり、自分は一体何者なのかと自問自答する環境にあったんですよね。だからこそ、僕はずっとアイデンティティの形成に直結する非言語コミュニケーションというものを大事にしてきたんです。

—周りの環境によって、必然的に非言語コミュニケーションが求められたということですね。

坂田:自分の想いを相手に伝えるときに、言語だけでは難しかったんです。僕は子どものころからスポーツをしてきたのですが、例えばサッカーだと、プレイ中にアイコンタクトやボディランゲージによって意思疎通ができるんですね。そうした過程のなかで、「共感」というものが自分のキーワードになっていきました。海外で生活していると、向こうの人たちは感情表現が非常に豊かだということを感じるのですが、それは言い換えれば、相手に共感する力が強いということなんです。多人種の世界では、宗教や文化をはじめとしたさまざまな違いがあって、お互いがわかり合えないことが前提です。だからこそ、それを乗り越えるための手段として、感情表現や共感というものがひとつの鍵になっているのだと思います。

—坂田さんがUXデザインに興味を持つようになった理由にもつながっていきそうなお話ですね。

坂田:そうですね。将来はモノ作りに関わる仕事をしたいと漠然と考えていて、幅広い分野でそれが学べそうだったSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)に進みました。入学してからは、プログラミングによるモノ作りをするようになり、いまはもう退任された安村通晃先生の研究室(インタラクション・デザイン・ラボ)に在籍していました。その安村先生が、UXの概念を提唱したドナルド・ノーマン博士の著書を翻訳していたことがきっかけで来日したノーマン博士ご本人による学内の特別講演を聞き、UXデザインに興味を持つようになったんです。UXという概念の核には、ユニバーサルデザインという考え方があります。これは、文化や言語、国籍、障がいの有無などを越えて、あらゆる人が利用可能なデザインをするという考え方なのですが、「誰にとっても公平なデザイン」という概念が、僕が大切にしてきた非言語コミュニケーションや共感というものとシンクロし、UXデザインを探求したいと考えるようになったんです。

リクルートは時代とともに
インターネット基点にシフトし、事業拡大している。
そのなかで、自分の「戦略×UXデザイン」の経験が
活かせるのではないかと考えたんです。

—大学を卒業してからは、どんな仕事をしてきたのですか?

坂田:UXデザインを探求するうえで、ITビジネスが非常に盛り上がりを見せていた時代だったこともあり、自分がやりたいことを実現するにはITがひとつの切り口になるだろうと考え、すでに海外進出をしていた大手のWebサービス会社へ入社しました。各事業のサービスやサイトの立ち上げ、改善を横断的に行う部署で仕事をするようになり、良いものを作るためには、画面など目に見えるデザインだけではなく、その背景にある機能やコンセプト、戦略という目に見えないデザインまでを考え、ユーザーともしっかり向き合うことが必要だということを知り、より本質的なデザインを考えることの大切さを学んでいきました。

—どのくらい働いていたのですか?

坂田:5年半ほど仕事をしていて、後半には社長室で事業計画や経営企画に関わるようになったのですが、次第にほかの日本企業とそのモノ作りについて考えるようになりました。世界中で100年以上続いている企業の半分以上が日本の会社なんですよね(帝国データバンク「長寿企業の実態調査(2014年)」)。そんな日本の企業というのは、どのような事業計画や戦略を持ってモノ作りをしてきたのかということを知りたくなり、デザインコンサルティング会社に転職し、さまざまな大手企業のサービスやWebサイトのデザインを支援するようになりました。その経験を通じて、UXデザインは経営戦略など企業の中核となる領域においても効果を発揮することができるということを実感できるようになったんです。また、企業の本質的な部分から改善していくことによって初めて、良いモノ作りができる組織文化が醸成され、ユーザーの共感も得られるということがわかりました。

—そこからリクルートに転職された理由は何だったのですか?

坂田:リクルートのビジネスは、かつては紙媒体が主流でしたが、時代とともにインターネットを基点とした事業拡大に戦略をシフトさせていきました。そのなかで、自分が経験してきた「戦略×UXデザイン」が活かせるのではないかと考えたんです。また、IT企業には、インターネット以外のアセットを持っている会社は少ないのですが、リクルートは雑誌をはじめとする、IT企業という特性上展開が難しいメディアを豊富に持っているということにも可能性を感じ、入社を決めました。

人生のターニングポイントに関わり、
人の大事な決断を支援するということは、
ここでしかできないこと。
それを線でつなげて、面にしていくことで
さらなる価値を創出していきたい。

—リクルートに入社してからは、どんな仕事をしているのですか?

坂田:役員含めさまざまなステークホルダーと日々コミュニケーションを取りながら、事業戦略やサービス戦略をどのようにして戦術として形に落とし込んでいくのかを考え、デザイナーやエンジニアにつないでいく橋渡しが現在の自分の役割です。仕事を始めてみて、ここまで役員の方々と密接にコミュニケーションが取れる環境や、自身のプロジェクトに対する深いコミットメントにとても驚きましたし、全員がプレイヤーだという意識が非常に強いと感じました。そして、自分からさまざまな環境にアプローチできる距離の近さも特徴です。企業にとって、したいこと(WILL)とできること(CAN)、そしてすべきこと(MUST)のバランスは非常に難しいもので、例え良い戦略やアイデアがあっても、それが実行されなければ無価値に等しい。重要なのは、良質なアイデアを持っているデザイナーなりエンジニアなりが、お互いにコミュニケーションを取りながら形にしていける環境の構築で、リクルートはその辺りのバランスがうまく取れている会社だと感じています。

—リクルートに入ったことで、仕事に対する意識に何か変化はありましたか?

坂田:リクルートでは、一人ひとりの社員が非常に強い「WILL」を持っています。みんなにやりたいことがあって、前のめりになりながらもそれぞれが助け合って進んでいて、ボトムアップの風土が根付いています。そうした環境のなかにいると、本質まで深く物事を考えるようになりますし、自分自身の器の幅が広がっていく感覚があります。自動車に例えると、リクルートに入る前までの僕は後輪で、経営陣が前輪となって舵を切っているイメージでしたが、いまは自分も前輪の役割を担い、どこに向かうべきかというところから関与できている感覚があり、当事者意識というものが非常に強くなりました。

—リクルートだからできることには、どんなことがあると思いますか?

坂田:僕は、「まだ、ここにない、出会い。」というリクルートのコピーが大好きなんです。これがすべてを物語っているような気がするのですが、人が成長しようとする限り、見たことがないセレンディピティを本質的に求めるもので、それを提供していくことがリクルートの役割であり、価値だと思います。結婚、就職、住まい探し、育児など多くの人が必ず通る人生のターニングポイントに関わり、人の大事な決断を支援するということは、ここでしかできないことです。今後は、こうした人生の節を線でつなげて、面にしていくことでさらなる価値を創出していけるといいのではないかと思っています。また、蛇口をひねれば出てくる水のように、いつでもアクセスできる身近なサービスを目指していければと考えています。

「おもてなし」のような概念をもっと活かすことで、
日本ならではのUXが
生み出せるのではないかと思っています。

—これまでに、UXデザイナーとしてさまざまな環境で仕事をしてきた坂田さんですが、リクルートのUXデザインにはどんな特徴があると思いますか?

坂田:UXデザインというのは基本的にユーザー視点で進めていくものなのですが、それによってついつい第三者的な視点に囚われがちなところがあります。一方でリクルートにいると、圧倒的な当事者意識を持って仕事ができる環境があるので、自分自身が事業やサービスの核に入り込んでいく感覚があります。そのような意識で取り組むことでアウトプットの質はこれまで以上に高まりますし、戦略に関わるレイヤーに携わって仕事ができるということは、本質的なUXを追求、体現するうえでも非常に大きな経験になっています。

—UXデザインに対する考え方には、企業や個人ごとに幅があると思いますが、坂田さん自身はUXデザインの本質をどのように捉えているのですか?

坂田:UXというのは難しく解釈されがちなのですが、僕はとてもシンプルなものだと思っています。企業、カスタマー、製品やサービスの関係性を考えたときに、企業には「このような世界観を実現したい」「カスタマーにこう感じてほしい」という想いやバリューがあり、それを形にした製品やサービスをカスタマーが受け取るという流れがあります。そのなかでUXデザイナーが果たすべき役割は、企業が社会やカスタマーに対して何を伝えたいのかという想いを汲み取り、伝わる形にしてアウトプットする「伝わる仕組み」を考えるということです。さまざまな企業と仕事をするなかで、UXデザインはこれくらいシンプルに考えなければ本質を見失ってしまうということを学びました。

—難しく考える必要はないと。

坂田:はい。僕は、UXデザインをひとつの領域として規定するのではなく、あくまでもひとつの視点や手段として考えることが大切だと思っています。ひとつのサービスを介してどのように人とモノが流れていて、その背景にはどのような想いが交差しているのか。それを考えていくこと自体がUXデザインであり、必要に応じて改善していくということが自分の仕事だと考えています。

—UXデザインの未来はこれからどうなっていくとお考えですか?

坂田:主にWeb業界の発展に伴い浸透してきた背景もあるのですが、UXデザインという言葉からはどうしても画面の設計など表層的な部分に目が向きがちです。でも、デザインには抽象度が高いものを具現化する力があり、それはWebに限ったことではありません。いまの日本には、散らばった点を結び、線や面として捉える視点が抜けてしまっている気がします。現代人がインターネットに接続している1日あたりの平均時間は2時間というデータもあるなかで(ニールセン「スマートフォンからのインターネット利用者、2015年冬にはPCを超える可能性」)、それ以外の22時間に目を向ける意識が大事なのではないかと。もともと日本には、「おもてなし」のように体験を考慮したサービスの概念が根付いているので、そのような発想やメタ視点をもっと活かすことで、日本ならではのUXが生み出せるのではないかと思っています。

知らない土地に行ったり、
耳にしたことがない音を聴いたりしたい。
体験や共感というものをキーワードにしてきたからこそ、
そういう想いが強いのかもしれないですね。

—坂田さんは本の監修や講演など社外での活動もしていますが、その背景にはどんな思いがあるのですか?

坂田:本に関しては、たまたま僕がブログでいろいろな記事を書いていたことがきっかけで、出版社の方から声をかけてもらったのですが、海外のナレッジを日本に展開・蓄積していくことの必要性は感じていました。逆もありきです。また、講演は自分にとって訓練という側面があります。第三者に話をするときは、いかに自分の想いをプレゼンテーションして、伝えるかということを意識しているんですね。それは最も日常に近いUXデザインですし、話していくことで自分の頭の中が構造化され、整理されていくベネフィットがあります。

—ほかの人にはなかなかできない経験をされてきていらっしゃいますが、リクルートではどんな価値が発揮できるとお考えですか?

坂田:おっしゃる通り、僕にはほかの人にはなかなか経験できないような、さまざまな人種、言語の人たちと接してきた経験があります。結果、コミュニケーションやデザインを考えるときに、その「深さ」や「構造」をメタ視点で捉える側面があると思っています。リクルートという会社が、そしてサービスがカスタマーからどのように見えているのかということに対して、多角的な視点から考えていけるということが、自分の持ち味なのかなと考えています。

—今後リクルートで実現してみたいことは何かありますか?

坂田:カスタマーを起点とした成長エンジンを各組織に装着していきたいという思いがあります。実際に会ってカスタマーの声に触れるだけではなく、しっかりとその声にならない声にまで耳を傾けて、カスタマーファーストで親しまれるサービスを作るということが、最も事業の成長につながることだと思っています。いまはまだ少しずつですが、定期的にプロジェクトメンバーとカスタマーが直接会う機会を作り、サービスに還元するためのナレッジを、完全にアナログな手法で蓄積しているところです。

—坂田さんの人生における夢があればお聞かせください。

坂田:人というのは、スマホなどを経由して目から取り込んだ情報だけではなく、ほかの五感を介して得た複合的な情報をもとに実際の体験を深く記憶するものですし、感動する生き物ですよね。そのようなアナログな体験の大切さに気づいてもらえるような仕事がしたいし、自分自身いつかそういう生活を送りたいと思っています。インターネットをいますぐ卒業するという話ではないのですが、これからはインターネットで培われた体験や経験をどう日常生活というコンテキストに変換していくのかということも考えていければなと。せっかく五感を持って生まれた人間なのだから、知らない土地に行って見たこともない石を拾ったり、耳にしたことがない音を聴いたりしたいんです。体験や共感というものをキーワードにしてきたからこそ、そういう想いが強いのかもしれないですね。

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